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現実とファンタジー

「そら」の事の報告も兼ねて日曜日、再び『店』を訪れた。店の中には少しばかりお客がいるようで、今度は店主立華さんも愛想よく接客をしていた。

「どうも」

彼女に声を掛けると、にこやかにほほ笑みかけてくれた。


「あらいらっしゃい」


「また来るって約束でしたしね」


「ふふ、常連さんができるのは嬉しいものね」


「ところで、あの後家に帰ったんですけど」


私はさっそく本題に入る事にした。


「ちょっと待って。実は私もあの後色々あったから、もしよければ少し時間をとって話をしない?」


「と言うと?」


「昨日まで遠くに買い付けに行ってて、今日持ってきたものでまだ整理していない商品があって今日はもともと早めの店じまいにするつもりだったのよ。整理をしながらになるけど、その時間に話をしてもらえると有難いわ。それまでは奥の部屋でくつろいでもらってても構わないし」


店を訪れたのが12時頃だったので、昼過ぎまではまだ時間がある。念のため「そら」に餌をあげて出てきていたので多少時間が経っても大丈夫なはずである。


「分りました。ただ私の方も探しているものがあるので、ここで探していきますよ」


「それも有難いわ。じゃあごゆっくり」


私は猫用のちょっとばかり良い皿を探していた。できれば何か模様が入っていたりすると良いのだが。幸い『店』には食器類も揃っているので、目移りしながら一つ一つ見定めてゆく。私が気に入ったのはやはり薄く『猫』の模様が入った皿で、値段も手ごろだった。購入する事に決める。レジに持ってゆくと待機していた立華さんが、


「あら、また猫なの?」


と微笑みながら訊いてくるので、


「ええ、さっきの話ですけどちょっと猫を飼いはじめまして…」


と答える。


「私も最近、『猫』には縁があるみたいね…」


と意味深な事を言う立華さん。お互い気になるようだったが、時間まではそれ以上話をしなかった。その後店主のご厚意で、店の奥のスペースに案内された。そこにはテーブルと椅子などが置いてあり、席を勧められた。恐らく先ほど整理すると言っていた商品が入っているであろう段ボールなどが幾つか積み重なっていて、よく見てみるとネット通販などで取り寄せた物もあるようである。


「こういう店を持つのは大変なんだろうな…」


と思わず独り言が漏れてしまった時、


「そうでもないわよ。大変さも楽しさのうちよ」


と返事があった驚く。立華さんは気を利かせてコーヒーを運んできてくれたのである。


「あ、これはどうも」


「実は落ち着いてコーヒーを飲めるようなスペースも作りたかったのよね…豆はいいのがあるんだけど」


「確かに美味しいですね」


「そう言ってもらえると入れ甲斐があるわ。もうちょっとしたら店じまいにするから」



余談になるがこの辺りでコーヒーが飲める店は限られてくる。そもそも喫茶店はおろか、食事処も少ないのである。確かにここでコーヒーや軽い食事ができるなら、そちらの方でも少し便利そうだなと思った。そうして想像しているうちに時間が過ぎて、店じまいをした店主がやってきた。彼女は私の向かい側の席に座り、同じくコーヒーを啜る。


「今日のはまあまあかな」


コーヒーについては大分こだわりがあるらしい。一息ついたところでこちらの方を見て、


「さて、どちらから話しましょうか?」


「じゃあ私からで…」


自然と私の方から「そら」の事を説明する事になった。


「あの日、家に帰って置物をガラス戸の中にしまった時に、ちょうど猫の鳴き声がしたんです」


「猫を飼っていたわけではないのよね」


「はい。実家では飼っていたのですが今は一人で生活していて、その辺りでは野良もいるのでそんなに珍しい事ではないのですが、鳴き方がちょっと必死だったというか、異様な感じがしたんですよね」


「そうなの」


「それで窓から眺めてみたら、向こう側に白い猫がいたんです。大分弱っている感じで、多分捨てられて彷徨ってそこまで辿り着いたという感じでしょうか」


「そういう話は結構あるみたいね」


「まあ放っておけなくなって保護したわけですが、その後色々面倒を見ていたらすっかり『白い猫の置物』の事を忘れてしまっていたんですが、考えてみれば置物を借りてすぐ起った事だなと、同じく白猫だし。ちょっとだけ何か縁のようなものを感じましたね」


「まあ、そこで『縁』と捉えるのか、必然と捉えるのかは人それぞれね」


「確かに起こり得た事と解釈する事はそんなに難しくはないんです。そもそも『白い猫の置物』を選んだのだって、もともと私が白い猫が好きだったという事ですし、偶々そういう事が起こっても特に奇跡的な事でもないと」



「そうね。『白い猫の置物』のいわくがあったとしても、そのせいでそれが起ったとは言い切れない」


「それでその猫の名前を「そら」にしたんです」


「良い名前ね。その子はオス、メス?」


「雌です。まあこの話は、本当にあの日の事だったから話したくなっただけですね」


「でも私にとっては興味深い話だったわ。ありがとう」


「いえいえ。ところでそちらの話というのは?」


「そうね…本当に何から話したらいいのか分からなくなるのだけれど、まあ荷物を整理しながらゆっくり話させて」


「はい。いいですよ」


というと、立華さんは立ちあがって、積んであるダンボールの前で屈んだ。


「そもそもこういうものを買い付けに行くついでに、友人の家に立ち寄ったんだけどね…」


立華さんはそこで小さく溜息をついた。


「今でも信じられない話なんだけど、何というかこれも『猫』にまつわる話なのよ」


「そうなんですか」


私の方を向いて目をしっかり見つめる立華さん。少しドギマギしてしまいそうだ。


「あなた、もし私が『猫』と食事をした、ゲームをした、って言ったらどう思う?」


「?よく分かりませんが、比喩としては『猫』がいる処でご飯を食べて、『猫』と戯れたという事でしょうか」


「普通はそうよね。でも私はその家にいるちょっと変わった男の子とゲームをして遊んで、その後食事に出かけたのよ」


「話が見えてきませんが、『猫』のような少年がその友人宅に居たという事ですか?」


「まあ、そんなところ。私は頭が変な人には思われたくないからこんな事を言いたくはないのだけれど、実は『猫が少年になっていた』のよ」



「え?どういう事ですか?」


「そのまんまの意味…って言っても理解できるわけないわよね。私もどうして受け入れているのか不思議だけど、とにかく見てしまったものだから、そう信じるしか無くて…証拠はあるのよ」


「証拠ですか?」


「この写真」


と言って見せてくれたのは間違いなく中高生くらいの少年が横になって気持ちよさそうに眠っている姿だった。


「普通の男の子みたいですね」


「猫の姿も撮ってあるのよ、ほら」


更に同じ部屋と思われる場所で気持ちよさそうに寝ているキジトラの猫の姿が写された写真も見せられた。


「可愛いですね」


「可愛いのは認めるけれど、これとさっきの男の子が『同一』だなんて誰が信じれる?」


立華さんは語気を強くして言った。


「ファンタジーだったらそういう事もあり得るかも知れませんけどね」


対して私は途中から出会った最初の日の幻想文学的な話のようにして聞いていたので、無責任な感じで言っていた。


「そうね。ファンタジーだったら許されるけど、この同じ現実の世界の出来事として捉えようとすると頭が上手く働かないというか、まだ上手く考えられないのよ」



「参考になるか分りませんけど…」


と断った上で私は立華さんにアドバイスをした。


「『白い猫の置物』の話もそうですが、取り敢えず今起こっている事に集中するのが良いんじゃないでしょうか?確かに『白い猫の置物』の効果はあるのかも知れない。だけど、実際に家にいる「そら」の事を考えてゆくと、自然にするべきことが分るというか、今日もこうして普通に皿を探したわけですし。必要な事だったんです」


立華さんはそれを聞いて何か思った事があるらしい。


「そうね」


と頷くと、


「私もこのダンボールの中のものを『店』に出さなくちゃならない。ファンタジーの世界だろうが、現実だろうがそれは同じなのかも知れない。あまり深く悩む必要はなかったのかも知れないわね。ありがとう参考になったわ」

と続けた。


「お役に立てたようでなりよりです」


その後、少しばかり立華さんの整理を手伝った私は『お礼』にと、商品の中から『幸運をもたらすかも知れない石』を貰った。ただ店主いわく、


「それはたぶん、普通の小さな石よ。アンティークでも何でもなく、大量生産されているようなものね」


だそうである。私は思わず笑ってしまった。
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