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徒然ファンタジー10

「これ重いよ…ご主人さま」


そのジェシカの悲鳴じみた声は賑やかな場所では掻き消されてしまう。リリアンと一緒に街に辿り着いたジェシカに待っていたのは、ごく普通の男性と同じような運命だった。案の定、荷物持ちである。『猫の手も借りたい』という言葉のそのままに、人間になった猫の手をこれでもかというほど酷使するリリアン。リリアンとしては周りを見れば一緒に歩いている男性が買った荷物を持ってくれている様子が普通だと思うから、ジェシカもそれに合わせて同じことをしてもらっているという言い分が成り立つ。完全に人間の姿なのだし怪しまれる心配はないのだが、普通にしておくに越したことはないのは確かである。


とはいえ、重いものなどろくに持った事のないジェシカはこの機会に乗じて嬉々として洋服を購入するリリアンから次々と荷物を渡され、既に挫けそうになっていた。


「男の子でしょ。その位軽いって」


確かにそれはそうなのだが、人間としての常識に疎いジェシカにしてみれば、


「なんで男の子だと荷物を持たないといけないのぉ~」


と疑問を発したくなるのも当然だった。リリアンはあまり気にしていないのか「ふふふ」と微笑むだけである。機嫌の良い彼女は道行く人、特に前を歩く仲の良さそうな男女を見つめて、何か思うところがあったのかジェシカに訊ねた。


「ねえねえ、私達ってどう見えるかな?」


こういう問い掛けは漫画などではお決まりなのだろう。一度これを言ってみたかったリリアンは、相手が猫だという事を意識していたのかどうか怪しい。


「え…?どうって、どういう事?」


ジェシカはリリアンがどういう事を訊いているのかまず分っていない。そもそもこういう会話が成り立つにはお互いに共通する知識や経験が必要なのである。


「どういう事って、私とジェシカの関係よ。周りの人はどう思ってるかな?」


丁寧に説明するリリアン。言わんとする事は少しは分かったが、ジェシカではその肝心の関係がよく分かっていない。


「ご主人さまと、俺でしょ?」


「それはそうだけど周りの人が見たら、私達も他の人と同じように見えるのよ」


明らかにリリアンはこの日浮かれていた。いくらジェシカが色々分ってきているとはいえ、現在特殊な存在である事には変わりないわけで、普通の人に見えるからといって変わったわけではないのだ。ただ、ジェシカもこの時、「他の人」というものを少し意識すると同時に「自分」や知らない人の中でその「自分」がどう見えているのかという事を考え始めていた。


「周りの人か…」


そうつぶやいてジェシカは少し黙って考える。そもそも『周りの人』とリリアンの違いは何だろう。ジェシカにとって『リリアン』は『リリアン』で、ジェシカの面倒を見てくれる人間、人である。他の人はジェシカが知る限り、この前自分の前に現れたシェリーや、いつも散歩をしていると挨拶してくれるおじいさんや、近所のおばさんなどがいて、確かにジェシカを自分たちの『仲間』のように見てくれているのが分る。人間に変身すると猫はそのまま自分と同じ何かだと思ったままなのだが、同時に人間も自分に近しいもののように思えてくる。まだ社会というものが分らないジェシカだが、少なくとも人は色々なところで助け合って人としての生活を送っているように見える。


<この人達も、みんな『仲間』なのかな…だとしたら、俺とご主人さまは…>


「仲間…かな」


「え?なに?」


予期していない答えを聞いたリリアンはもう一度訊き返した。


「俺とご主人様は、仲間だと思う。仲間に見えると思う」


「仲間…」


その答えはリリアンが無意識に望んでいるものではなかったが、ジェシカが本当に思っている事が伝わってくる温かい言葉だった。ただ、素直に「そうだね」とは言いたくない気持ちもあって、


「それだけ?」


と意地悪をしてしまう。ただ既にリリアンは満面の笑みを浮かべている。ジェシカはすこし唸って、何かを捻り出そうとしている。


「ぴったりくっ付いている仲間…」


言葉というか他の概念を知らないジェシカは、自然と比喩的な言い方で二人の関係を述べた。それを聞いたリリアンは凡そ言いたいことが分って満足した。


「うん。そうだね、私達はいつも一緒!!」


多分色々な関係があるけれど、一緒にいるという事は望んでいる一つの事であるのは確かだろう。心を許しあえているかという事は、猫のままでは分らない事もあるけれど、ジェシカの言葉はほとんどそれを示していると言える。


「ところでご主人さま…」


とはいえ、ジェシカにはそれ以外に伝えるべきことがあるのである。


「どうしたの?」


「これ、ちょっとだけ持ってよ…もう限界…」


リリアンは苦笑した。


「ジェシカもまだまだね。仕方ない、『仲間』だから持ってあげようか!」


「あ、ありがとう」


「どういたしまして!!」


そう言ってリリアンはジェシカから荷物を半分ほど受け取った。美談のように見えるけれど、騙されてはいけないのはそもそもこの荷物の殆どはリリアンの物なのである。
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