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いじわるにっき

触れる事の出来ないものだからと言って「無い」というわけではない。でも確かさを感じていないのに、それが「ある」と自信満々に言えるほど私は気が強いわけではない。あるような無いような、そういう分らない何かを、そのままあると思えている時には「あるような気がする」と言って、自信がなくなったら「無いような気がする」と言う。ただそれだけの事なのに、その言葉さえ野暮ったく思えてしまうのは何故なのだろう。


空気が澄んだ午後。陽射しはないけれど風も穏やかで心地がよく、まるで子供の頃に読んだ絵本の世界のような気がしている。だけどその世界のように、現実は動いていなくて、もっと不安定で不確かな関係が、あるような無いような認識で多くの人は動いている。


「セカイ」はあなたを肯定もしなければ否定もしない。


いつの頃からか自然に浮かぶようになっていた一つの言葉が私の世界を色づける。それは無色透明な絵具だ。おそらくそれが当たり前なのだろう。庭でそよぐ草木から風を感じたとしても、部屋の中にいる私にまでそれが届くというわけではない。同じように、価値で揺れる物事を見ている中で見出される「セカイ」は私に何も与えない。与えはしないけど外に出て本当の意味で風を感じるように世界を感じるとしたら、やはり世界は私を肯定もしないし否定もしないと思う。



「セカイ」は多分、人間社会の事だ。少なくとも人間社会で暮らすには「セカイ」に肯定されていた方が生きやすい。否定されているなら生き辛いだろう。その段階でも私は「セカイ」自体が肯定も否定もしていないと感じる。



「また難しそうな顔して」


とそんな事を考えていると、いつの間にか隣には彼が座っていた。


「難しいのは顔じゃないわ、私が考えている事よ」


「何考えてたの?」


「私が社会から肯定されているか否定されているかという事ね」


「でもそれは本質的な事じゃないと思うよ」


「何で?」


彼は妙に自信たっぷりである。


「僕は少なくとも君を肯定するよ。いつでもって訳じゃないけど、君が自分でちゃんと考えて「それが良い」と思う事をしているなら」


「でもあなたしか肯定してくれない事もあるかも」


「それだけじゃ不満?」


私の目を覗き込むようにして見る彼。


「ちょっと不満」


彼は「ふふ」っと少しだけ笑った。


「正直だね」


「あなたなら正直に言って欲しいって言うでしょ?」


「ごもっとも。ただ、肯定はしてくれないかも知れないけど、こいつは懐いてくれるよ」


と言って足元に近づいて来ていた猫の『トラ丸』を抱きかかえる彼。そのまま私に渡してくれた。胸に抱くと『トラ丸』は気持ちよさそうに目を細めた。


「どう?」


「まあ満足」


「そうか。僕もまあ満足」


「満足じゃないの?」


「君が満足じゃないから、満足じゃない」


つい私は吹き出してしまう。


「何それ、変なの」


「僕はいたって真面目なんだけど…」


渋い表情を見ていたら、なんとなく「何か」に触れたような気がした。それは今なら「ある」と思えるのに十分だったかも知れない。


「その顔を見てたら満足になったわ」


私はわざと意地悪そうに言った。


「え…そうなの…君ってもしかして…」


「ふふ…さあね」


穏やかなだけでは物足りない。「ある」と思うものを感じたら。
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