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TNTな毎日

トリニトロトルエン、つまりTNT。べらんめぇ口調でトリニトロトルエンを要求する日々には流石に飽いてしまった。そもそも秘密結社「バラク・叔母」には毎日人が押し寄せる。目的は様々だが、いちばん多いのはそろそろ老後の蓄えに対しての不安が出てくるであろう年代の人と、ただひたすら今を生きる幼稚園児達である。よく分からないネットワークを介して伝わる結社からの情報は伝言ゲームの様相を呈し、最初は

「ハンバーグに大根おろしをのせた味わい深さを称賛するべきである」

という文書が公式に出されたかと思うと最終的には


「歯が抜けた頃になったらそろそろ定期を解約すべきである」




「みんな大好きあんこのヒーローがやってくるよ」


になったりする。秘密結社としての暗号をきちんと読み解けば公式文書は


『我々は某人物と接触し、その莫大な資産を譲り受けた』


となるはずだが、カムフラージュなのか大量に押し寄せる人々に対して表向きの情報しか与えられていない新人フロントが困惑しながらもそれらしい表現を用いて対応している姿がよく見受けられる。私はそのフロントに何度も説明をしているのだが、どうしても相手に信用されず、途中からつい喧嘩口調になってしまうのである。


「だから何度も言っているだろう。こんちくしょう。このめぇ手に入れたっていう資産の中にはTNTがあんだって話なんだよ」


「お客さま、こちらも何度も申し上げさせて頂いていますように、うちはそういったお仕事は扱ってないです」


多分これもカムフラージュだろうけれどフロントが敬語もところどころ怪しい非常に若い、おそらくは高校生のバイトの女の子だからか、話がまったく噛み合わなくて、時々自分が間違っているかのような錯覚を引き起こされる。


「ちげぇよ。そういったお仕事が本業だろうがよ。おたくは知らねぇかも分らんが、上に話を通せばすぐ分るってのに、何でそれが出来んのかね?」


「お客さん。前から思ってたんですけど、そもそも「てぃーえぬ…」とかそれって何なんですか?」


「んなもん常識だろう。トリニトロトルエンの略語だ」


女の子はチンプンカンプンといった様子で頭を捻っている。


「とりにと…とる…鳥をどうにかするんですか?」


「お嬢さんよ、高校生にもなってトリニトロトルエンを知らねえのはまずいぜ。アクリロニトリルならともかく、トリニトロトルエンTNTって覚え方をするもんだろうよ」


何か思いつくことがあったのか、女の子は訊いてきた。


「あ、それってもしかしてお薬の名前ですか?飲み薬、風邪薬とか?」


「本気で言ってんのか?いや、飲んだら身体には良くないと思うがよ、使い方が違うぜ」


ますます不思議そうにしている。


「じゃあどうやって使うんですか?っていうか、それなんですか?」


面倒で答える気にもならない。


「しゃらくせぇ、とにかく上に言えば分ってくれるからよ、話を通してくれよ」



「いえそうはいきません。「なんとか鳥」の事を教えてくれるまではウチにだって意地があります」


「お嬢さん、今高校何年?」


「高校三年です」


「文系?理系?どっち?」


「理系です!!」


えへん、と胸を反らす女の子。それに対して私はつい「ゲ…」と言ってしまった。


「お嬢さん化学選択してるか?」


「いえ、嫌いなので生物を選びました」


「だったらまあ、しゃあねえか。教えてやるよ、単純に言えば爆薬のことだ」


「爆薬って、どっかーんってなるやつですか?」


「そうだ、どっかーんってなるやつだ」


そこで何かにツボってしまった彼女は大笑いし始めた。


「はははははははは!!!おじさん変な人だったんですね。爆薬なんて何に使うんですか?」


「いや、おじさんって歳でもないんだが、まあそれはそれで、用途は色々あるさ」


「例えば?」


「まあ世の中には秘密で使いたい人もいるから、ネット通販で転売だな」


「うわ~、悪そう…」


「悪そうっていうか、この結社がそもそも悪いんだけどな」


「何言ってんですか、ここは中高年と幼児に大人気の施設ですよ」


「だから、それが『表の顔』…っていうのかなんかの手違いでそんな感じになっちゃってるだけで、ってかよ、お嬢さんが話をややこしくしてるんだって。馬鹿丁寧に接客し過ぎだろう。適当にあしらっておけばいいのに」


「はぁ?お客さん、いくらお客さんとはいえ、ウチの仕事を馬鹿にするのは許されませんよ」


「じゃあ訊くが、ここは何をする為の施設なんだ?」


「え、普通の施設ですよ?見れば分るじゃないですか?」


「だからお嬢さんの言う『普通』ってどんなイメージなんだよ。ってか非営利とか営利とかいろいろ分類があるだろう?」


「サービスするところですかね?」


「何をサービスするんだよ?」


「話し相手とかじゃないですかね。みんなウチと会話しているうちに「気分が良くなった」って言ってくれてますよ!」


「まあ、お嬢さんみたいに能天気だと、逆に元気がでるかもな…」


「はぁ!?喧嘩売ってるんですか?」




と…よく分からない間に日が暮れて、結局トリニトロトルエンを手に入れられない毎日なのである。
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